目に痛いような緑の中、削り取られたように刈られた麦畑、涼やかな木陰を作り出す背高ノッポの糸杉、無造作に整列するオリーブ、そして映画のシーンそのものの見事なヒマワリ…イタリアのハートと言われるだけあって、初夏のウンブリアの景色はため息が出るほど美しい….
そして目前にスバーシオ山が見えてくると、中腹に広がるアッシジの街が見えてくる。東西に長く延びたその全景は、S・フランチェスコの聖地として堂々たる風格を漂わせ、実にダイナミックに目に飛び込んでくる。絵画的な風景の中に出現する巡礼の地。この瞬間を逃すのはあまりにも勿体ない。どうぞ、バスの中では眠らないで…(爆睡していた友人に向かって…(笑)
スバーシオ山から切り出された石は淡いピンク色をしている。白であって白でない、聖堂の独特の風合いがココから生まれる。
教会にイエスの生涯や受胎告知といった聖書の場面が、必ずといっていいほど描かれているのは、ラテン語を解さない庶民が「見て」わかるようにするためである。 当時の教会の説教とは、ラテン語で行われていたが、それが理解できるのは、高い教育を受けた貴族や商人といった裕福な上流社会の人たちだけであった。 結果、教会に金が流れ、贅沢と権力に慣れしんだ聖職者は、貧しい者を顧みず堕落の一途をたどるようになる。
そんな混沌とした時代に現れたのが、ある日突然神の声を聞き、その身を神に捧げることになるフランチェスコであった。 彼の説教は万人が理解できるイタリア語であり、野に咲く花であれ、空飛ぶ鳥であれ、生きとし生けるもの全てに神への感謝を説いた。素朴で簡潔な教えと私利私欲に走る教会と正反対の清貧な姿が、人々の心を瞬く間に捉え、教えは急速に広がっていく。
自らも富豪の家に生まれ、豪遊の限りを尽くしていたフランチェスコの波乱に満ちたその生涯は、それだけに人々にとっては身近で親しみやすかったのか、数多い聖人の中でも、最も愛され、また論じられているひとりともいえる。
そんな彼を扱った2本の映画を紹介しよう。実際の舞台、アッシジの街並みや、フランチェスコの姿を映像で見ると、また違った感じ方が得られるはず。できればアッシジを訪れる前に是非見ておきたい映画である。
Brother sun, sister
moon / ブラザー・サン、シスター・ムーン
1972年 イタリア/ F・ゼフィレッリ監督
Francesco/フランチェスコ
1989年 イタリア/リリアーナ・カヴァーニ監督